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連載企画「ITエンジニアの君たちはどう生きるか」

第3回 大手を実際に辞めてわかったこと

2018年2月15日

2017年のソニー生命の調査によると、男子中学生の「将来なりたい職業ランキング」でプロスポーツ選手などを抑え、「ITエンジニア・プログラマー」が1位に輝きました。

ピアノ、水泳などの教室に並び、プログラミングは子供が習う人気の習い事になりつつあります。
ITエンジニアを目指す学生や、なりたての人も少なくないでしょう。

しかし、最初のデジタルコンピュータが世に出てきてわずか70年程度。ITエンジニアはまだ若い職業なのです。

スキルはどう積んでいけばいいのか?年を取った後のキャリアは?疑問は尽きません。

そこで、エンジニア40人を擁するITシステム開発企業、C4Cが5回連載で、エンジニアとしてどう生きるかのヒントを考えてみました。

安定した収入、福利厚生、研修などスキルアップの機会…。フリーランスが増えた今でも、大手企業でエンジニアとして働くメリットはたくさんあります。それらに背を向けて自分の足で歩いてみたエンジニアには何が見えたのか?実際に大手システム開発会社からの転身を果たしてフリーのエンジニアとして活躍するC4Cの矢口達之さんに、辞めたことで広がった世界について聞いてみました。

「深く考えず」まずは大手に

―――最初、大手に入ったのはなぜですか?

大学のころは文理が混ざった学部に所属していました。
コンピュータサイエンスやプログラミングの授業も習っていましたが、どちらも当時は苦手意識を持っていました。

新卒として、富士通グループの大手システム開発会社にエンジニアとして就職しました。当初からエンジニアを目指していたわけではなく、IT業界以外も受けていたくらい。

今とちがってまだ買い手市場が続く中、「大手企業から内定をもらえた」という理由だけで、今振り返ると決して深く志望動機を考えていたわけではなかったです。大手なら研修もしっかりしているだろうというのもありました。

入社当初は、やはりプログラミングに非常に苦労しました。入社して1~2年はプログラマーとしてプログラミングやテストを、3、4年目はあまりプログラミングはせずに基本設計についての顧客との折衝、計画を立てたりする仕事が多かったです。

この会社での最後となる5~6年目はチームリーダーとして、協力会社や後輩プログラマーの進捗管理、お客さんへの報告などに携わりました。

「意図しない方向に向かう」ことへの違和感

――――辞めた理由はなぜですか?プログラミングが嫌になったとか?

実はその逆で、「プログラミングをもっとやりたくなった」のです。
最後の2年、チームリーダーの仕事をしていた際に、どうしても会社から与えられた仕事を「やらされている感」を強く感じていました。

例えば障害の原因分析や協力会社のメンバの作業管理といった業務をこなすわけですが、最後に携わったプロジェクトチームのプログラマーたちが非常にレベルの高いエンジニアだった。
自分は今までエンジニアの仕事の表層だけを体験しただけで、この人たちと渡り合えるだけの深い技術を学べていなかった、と痛感したのです。
表層の管理の仕事を「やらされている感を抱きながらやっている」。大げさに言えば自分のキャリア、今までしてきたことを否定された気分でした。

私はこの会社にそのまま居たら、いわゆる「プロジェクトマネージャー」、お客さんとお金の管理などをする監督のような仕事についていたはずです。

社内でプログラミングに長けた人の評価があまり高くなかったことに疑問も感じていました。

大手にいればどうしてもレールを敷かれる。意図しない方向に人生は向かってしまうのです。私は技術をもっと取り組みたいという自分の気持ちをごまかせなかった。

interview

苦手だったプログラミングに夢中に

――――辞めて何が変わりましたか?

今は大手と組んでアプリケーション開発に従事しています。
給与がよくなったり残業が減ったりしたことも大きいですが、何より新しい技術に向き合えるのが楽しいです。新入社員のころは土日にはやろうとも思わなかったプログラミングですが、今は通勤途中でもネットで情報収集したり、帰宅後も休日でも趣味でやってしまったりするほどです。

考えてみると、大手では「納期を守る」といったプレッシャーに追われていました。今もそれがないわけではありませんが、いい意味で公私の垣根が崩れた感じ。かつては「サラリーマン」たちと仕事している気分でしたが、今は周囲にも技術にこだわりを持った人材が多く刺激になっています。

ただ、大手を経験せずそのままフリーランスになっていたら、プログラミングが嫌いなままで営業職にでもなっていたかもしれません。だから大手にいたというキャリアにも感謝しています。

今なら新しいITのサービスを自分で作ることだってできる。経営者的な目線は、会社員時代にはなかったものです。このまま技術を磨いて「スーパーエンジニア」になっていくかはまだわかりませんが、フリーランスになったことでいろんな可能性を手にできた、と実感しています。